about Keith Jarrett and Miles Davis's ensemble

キース・ジャレットの伝記(2020年7月英語版)と、マイルス・デイヴィスの結成したバンドについて、英日対訳で読んでゆきます。でゆきます。

「Moving to Higher Ground」を読む 第10回

あとがき  

ウィントン・マルサリスとサンドラ・デイ・オコナ―判事との対談 

   

<写真脚注> 

ウィントン・マルサリスサンドラ・デイ・オコナ―との間で、「Let Freedom Swing: A Celebration on America 自由をスウィングさせようアメリカ祝祭の日に際して、ジャズそして合衆国憲法をテーマに対談が行われました。 

 

第44代アメリカ合衆国大統領となるバラク・オバマ氏が臨む大統領就任式の前夜、ワシントンDCで開催されたケネディセンターでの祝賀行事「Let Freedom Swing: A Celebration on America 自由をスウィングさせようアメリカ祝祭の日」に際し最高裁判事歴任したサンドラ・デイ・オコナ―氏とウィントン・マルサリス氏との対談が開かれました。ジャズ、そして合衆国憲法についての話題は、本書「ハイヤーグラウンド:上を向いていこう」にインスピレーションを受けてのものです。以下、その抜粋を御覧ください。 

 

ウィントン・マルサリス 

ジャズのインプロバイゼーションの素晴らしいところの一つはですね、誰もが知っているモチーフを使って、それを全く別のものに作り変えてしまう、でもそのキャラクターは残しておく、そんなことが出来ることなんです。これって、合衆国憲法にも通じますよね。適用に柔軟性を持たせて、法律は維持しつつ、そこに解釈の余地がある。つまり、人間は理想を持つことを認められていて、それはずっとかわらないものなわけですから、憲法は常に新しさを保っているわけです。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

あなたがこの本の中で、優秀なジャズバンドと優秀な民主主義の在り様を結びつけて書いた部分があるけれど、そこが良かったわ。 

 

ウィントン・マルサリス 

それが合衆国憲法とはどういうものか、ということだと、僕は思うんですよ。優れたものが集まって、様々な問題を片付けてゆく、みたいなね。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

我が国の憲法を作った人々の、最大の貢献は何かといえば、今の政治体制「三権分立」を作ったことです。大統領、立法府、それから司法と、それぞれが他の二つに対して権限を発動できるのです。 

 

ウィントン・マルサリス 

その三つとも、色々な問題を解決していく上で、微妙なバランスを取ってますよね。個人の権利、各州政府の権限、そして連邦政府の役割といったもののね。これは音楽でも同じことなんです。いつもそうですが、ドラム奏者は大統領みたいなものです。一番大きな音のする楽器を担当しますからね。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

大統領はドラムなの? 

 

ウィントン・マルサリス 

そうです。ドラムが大統領ですね。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

なるほど。じゃあベースは?これもかなり大きな音よね。 

 

ウィントン・マルサリス 

裁判官ですね。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

あら、そうなの!司法のね~。 

 

ウィントン・マルサリス 

ミルト・ヒントンっていうベースの名人がいるんですが、彼は「ジャッジ」なんていわれてますよ。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

メンバーをシュッとさせるわけね? 

 

ウィントン・マルサリス 

ベースっていうのは、ハーモニーとリズムの両方を発信するんです。そしてリズムセクションの中心にいますので、バンド全体の動きを把握して、曲の基本リズムとハーモニーのカギを握っているわけです。それからピアノ、ピアノもリズムセクションの一人ですが、これは議会、つまり立法府みたいなものですかね。ピアノは曲に出てくる音符も音階も全てを担当します。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

ピアノは何でも演奏できる、同時にお互い聴き合わないといけない。ここがポイントね。誰か一人がソロをやっている時は、他のメンバーも演奏しているけど、ちゃんと聴いてもいるのね。 

 

ウィントン・マルサリス 

バンドで演奏していると、大事なことを色々学びますけれど、その中の一つにですね、とにかく他のメンバーを聴くことは「絶対」。そうすることで心が開かれて、自ずと色んなことが耳に入ってくるようになる、っていうのがありますね。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

なるほどね。だったら議員の先生方も、もうちょっとジャズのセオリーをお勉強なさったらいいわ。そうすれば私達の暮らしも、少しはマシになるかも。そう思いません? 

 

ウィントン・マルサリス 

同感ですね。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

この本で、あなたがお書きになったこの部分が、とってもいいわ。「チーム一丸となって物事に取り組む集団が、心に何かしらの思いを抱く時、そしてメンバー全員が公平・公正であると互いを信じる時、何があっても調和を保つと決意を固める時、これを人は「スウィング」と呼びます」。 

 

ウィントン・マルサリス 

スウィングっていうのは、バランス感覚なんですね。合衆国憲法はスウィングの極め付きの一つでしょう。お互いの目的をすり合わせて、それをまとめ上げて、気分良くそれを受け入れるには、どうすればいいか。スウィングっていうのは、お互い相反するものを一緒にまとめる行為なんですよ。そしたら、ベースを例にとってみましょう。ベースっていうのは、元々一番音量が小さくて音域が低い楽器です。これをアンプで音量を上げるわけですが、ベースが全ての拍で足並みをそろえなければいけないのが、シンバル、これはドラムセットの一部ですが、ベースとは真逆に、一番音量が大きくて音域が高い楽器です。この真逆の二つが仲良く仕事をしきれれば、それは素晴らしいことです。そうでないと、目も当てられません。ミュージシャンがいつも言っていることですが「一緒にやるからにはベストを尽くそう、この曲に取り組むからには、今も、これからも一緒にやっていこう」とね。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

この度の大統領選挙では、国民全体が未来に向けて何かしらの誓いを立てたかのように、一つにまとまったんじゃないでしょうかね。 

 

ウィントン・マルサリス 

今からワクワクしますよ。今回の結果で世界中が盛り上がっていますよ。 

 

サンドラ・デイ・オコナ― 

そうですね。私達皆で、今度の新政権が最高のものになることを願いたいものですね。うまく行ってほしいと思います。 

 

ウィントン・マルサリス 

そうです。そして皆でうまく行くよう、力を合わせていきましょう。 

 

 

 

 

 

筆者紹介 

 

<写真脚注> 

ダニー・バーカー先生のバンド(1970年):縦じまのハイウォーターパンツを穿いているのが僕で、左がハーリン・ライリー。 

 

ウィントン・マルサリス 

ニューオーリンズ出身。アート・ブレイキーとザ・ジャズ・メッセンジャーズで研鑽を積む。現在、ジャズ・アット・ザ・リンカーンセンターの音楽監督。これまでに、大・小多くの受賞歴を誇る。 

 

ジェフリー・C・ワード 

作家。「ジャズ:アメリカ音楽の歴史」 「戦争」 他、書作多数。 

 

両名とも、かの「セレンゲティ・クラブ」のメンバー