about Keith Jarrett and Miles Davis's ensemble

キース・ジャレットの伝記(2020年7月英語版)と、マイルス・デイヴィスの結成したバンドについて、英日対訳で読んでゆきます。でゆきます。

2021-01-01から1年間の記事一覧

Keith Jarrett 伝記(英語版)6章pp102-end(105)

4年後、グルジェフの作品を収録した「祈り:グルジェフの世界」は、新たな方向へと舵を切る作品となった。その要素は2つある。一つには、この作品では、ジャレットはインプロヴァイゼーションを、ほぼ完全に封印し、自分以外の人間が作った曲を演奏したこと…

フォート・ヤウー:「アナグラム」は思いを込める手段

一つの単語の文字を並べ替えて、全く違う意味の単語を作る遊び、「アナグラム」は、どこの国にもあります(特に、文字が「音」を表す国では)。 (猫)cat → c / a / t → act(演じる) キース・ジャレットの作品では Fort Yawuh → f / o / r / t / y / a / …

Keith Jarrett伝記(英語版)6章pp.97-102

同じ年、そしてこのアルバムが、いわばジャレットとアイヒャーの二人の「手元に転がり込んできた」その後で、キース・ジャレットは180度方向転換をして周囲をアッと言わせた。マンフレート・アイヒャーに刺激を受けた彼は、ドイツのウンターアルゴイ郡へ向か…

Keith Jarrett伝記(英語版)6章pp93-97

「ソロ・コンサート:ブレーメン、ローザンヌ」は、キース・ジャレットが昔ながらのジャズ伝統と袂を分かち、二度とこれまでのインプロヴァイゼーションには戻らない:前もって口頭で打ち合わせをしない、既成のコード進行を使わない、そういった意味では紙…

Keith Jarrett伝記(英語版)6章pp.88-92

ジャレットは天賦の才を持つソリストと書いたが、彼が一般的なピアノ奏者の味わう苦労をせずに来ているかと言えは、そんなことはない。グレーテ・ヴェーマイヤーというピアノ教育者が、カール・ツェルニー(フランツ・リストにピアノを教えた人物)について…

「ウイーン・コンサート」ライナーノーツ 考察

I have courted the fire for a very long time, and many sparks have flown in the past, but the music on this recording speaks, finally, the language of the flame itself." キース・ジャレットのファンの方にはお馴染みの、「ウイーン・コンサート…

Keith Jarrett伝記(英語版)6章pp.85-88

6.無限の可能性を秘めたソリスト ピアノにまつわる金言格言をいくつか見てみよう。エドゥアルト・ハンスリックという、ブラームスの友人にしてワーグナーの仇敵の言葉:ピアノ奏者の腕の見せ所は、「タッチ」(鍵盤の触れ方)の奥義にある。詩人ハインリッ…

Keith Jarrett伝記(英語版)5章pp.77-84

チャーリー・ヘイデンといえば、ジミー・ブラントンやレイ・ブラウンといった奏者たちと同じ、「ウォーキングベース」のスタイルを持つ印象的な存在として知られているが、同時に、自らリフを創り出し、それをしっかりと演奏し続けることができる。これには…

Keith Jarrett伝記(英語版)5章pp.73-76

「ミスフィッツ」で生まれた圧の強さを、穏やかな静けさへと変化させてくれるのが、次の曲「フォート・ヤウー」だ。ジャレットの金糸で装飾を施すようなピアノのモチーフが、フェルマータのたびに分断される。それらの音は、次の新たな動きが起こるまで、響…

Keith Jarrett伝記(英語版)5章pp68-73

5.「極み」へ向かう、「いろは坂」の数々 「アメリカ音楽」とは何か?名作曲家にして毒舌批評家の、ヴァージル・トムソンが、なかなかニクい答えを出している「アメリカ音楽を作曲するのは、とても簡単。まずアメリカ人になること。そして頭に浮かんだこと…

Keith Jarrett伝記(英語版)4章pp61-67

このトリオの最初のレコードは、1967年にジョージ・アヴァキアンのサポートの元制作され、1年後「人生の2つの扉」のアルバム名でリリースされた。このレコードを世に送り出したのはネスヒ・アーティガン。ボルテックス・レコードという、アトランティック・…

Keith Jarrett伝記(英語版) 4章pp58-61

感受性が豊かなアーティストにとって、この地を取り巻く歴史について、心の内にそれを思い描くことは、容易いことだ。ウォルト・ホイットマンの有名な格言「草の葉一枚一枚にも、歩んだ歴史があるのだ」。キース・ジャレットの家の台所に、メモを貼るボード…

Keith Jarrettの台所メモ:スー族長の詩

O Great Spirit, whose voice I hear in the winds and whose breath gives life to all the world, hear me! I am small and weak, I need your strength and wisdom. Let me walk in beauty, and make my eyes ever behold the red and purple sunset. Mak…

Keith Jarrett伝記(英語版)4章pp54-57

4.「キース・ジャレット」となってゆく年月 ジャズの批評家、作家、そして作曲家としてもよく知られているレナード・フェザーは、1971年の年頭に当たり、火を吹くような激しい言葉を綴った。「ダウン・ビート」の年間総集号に寄稿したタイトルは「魂を売り…

Keith Jarrett伝記(英語版)3章pp47-52(end)

1972年、「フェイシング・ユー」がリリースされる。同じ年、「誕生」がアトランティックから発売される。「誕生」は1971年の録音で、所謂「アメリカンカルテット」(ジャレット、デューイ・レッドマンのテナーサックス、チャーリー・ヘイデンのベース、ポー…

Keith Jarrett伝記(英語版)3章pp43-47

3.理想のパートナーシップ ダニエル=ヘンリー・カーンワイラーは、23歳で会社を立ち上げた。この際、返済可能な範囲で親戚からお金を借りて、ささやかな設立資金としたのである。彼が代理人を務めた画家、パブロ・ピカソは、彼より3歳年上だった。お互い…

Keith Jarrett伝記(英語版)2章pp38-42(end)

本番が始まった。キチンとした開始の合図はなく、ドラムが、切れ目なくロックのリズムを拡散し始める。キーボードが、ささやくようなサウンドを重ねる。パーカッションが、前のめりのアクセントを効かせ、クイーカのこするような音に乗る。ベースが、オステ…

Keith Jarrett伝記(英語版)2章pp33-38

もちろん、キース・ジャレットはチャールズ・ロイド・バンドのメンバーのうちの1人、という世間の見方ではあるものの、彼の優れたインプロヴァイゼーションにより、個人としても優れたジャズミュージシャンであると世間は見るようになった。そしてどこのバ…

Keith Jarrett伝記(英語版)2章pp26-33

数ヶ月の内に、キースは音楽活動の日の当たる場所に活路を見出していた。アート・ブレイキーのバンドがこれまでのジャズの代弁者あったとすると、チャールズ・ロイド・カルテットは時代、すなわち、懐の深さを示す幸福感あふれる雰囲気や、ヒッピーの色とり…

Keith Jarrett伝記(英語版)2章(pp.23-26)

2.ジャズへと向かう3つのステップ: アート・ブレイキー、チャールズ・ロイド、マイルス・デイヴィス ミュージシャン達がニューヨークに望むもの、それは夢の実現。ミュージシャン達をニューヨークで待ち受けるもの、それはこんな現実「ジャズミュージシ…

Keith Jarrett伝記(英語版)1章(pp.18-22)

<18頁写真脚注> スタン・ケントンクリニックにて(1961年、キース・ジャレット16歳)。気鋭の若手ミュージシャンが集まるワークショップ(原画提供:ジェイミー・エバーソルド) キース・ジャレットは16歳でエマウス・ハイスクールの卒業資格を取得(飛び…

Keith Jarrett伝記(英語版)1章(pp.13-17)

このプログラムにはジャズはまだあがっていない。このピアノの「神童」が将来どうなってゆくか、そのカギは過去の音楽、すなわちクラシック音楽にあった。もっと言えば、世間をあっと言わせたのが、1988年のこと。この名ジャズピアニストにして、フリーソロ…

Keith Jarrett伝記(英語版)1章(pp9-13)

1.アレンタウンに育つ ペンシルベニア州アレンタウン、といえば、アパラチア山脈の山麓に広がる丘陵地帯にある町だ。ふらっと訪れるような場所ではない。行かなきゃ!と決めて訪れるような場所だが、果たして誰が好き好んで?という話である。ここは工場の…

Keith Jarrett伝記(英語版)序曲(pp.5-8)

ジャレットの思いと才能は底無しだ。それが彼の人となりを形成し、音楽を形作って凡百のピアニストから抜きん出る原動力なのである。こういったものは、必ずしも簡単には耳に届くものではない。本当に優れたジャズミュージシャン達とは、それぞれが自分のス…

Keith Jarrett伝記(英語版)序曲(pp.3-5)

キース・ジャレットが生まれたのは、こうして世界が「これ以上落ちることのないところまで落ちた」1945年5月8日、ペンシルベニア州の小さな工場(こうば)の街・アレンタウンで生まれた。彼がこの記念すべき日に生まれたことは、何やら運命に逆らえない感じ…

Keith Jarrett 伝記(英語版)序曲(pp.1-3)

序曲:「天才」の所以…1945年・欧米 アルフレート・カントロヴィッチは、ニューヨークに亡命中、ドイツ語で日記にこうしたためている。「Es ist gut, heute allein zu sein(今日は独りがいいな)」。日付は1945年5月8日カントロヴィチは更に続ける「もう過…

Keith Jarrett 伝記(英語版)謝辞

Acknowledgements 謝辞 I would like once more to take this opportunity to express my thanks to the publisher Rowohlt Berlin, to Manfred Eicher and the entire ECM team, as well as to Wolfram Knauer of the Jazz-Institut, Darmstadt, who have c…

Keith Jarrett 伝記(英語版) まえがき

まえがき 世の中、フレンドリーに接してくれるアーティストというのは、あまり多くない。勿論、居るには居る。辛抱強い彼らは、我々に進んで丁重に接し、こちらの「しようもない」質問に知的に答えてくれる。そうやって彼らの作品や能力に光を当て、それが出…